岩手県盛岡市 伝統の手しごとの旅ガイド

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世界が注目する盛岡の手しごと文化

2025年12月19日にテレビ岩手で放送される旅番組『未来へつむぐ、手しごとの旅~市川実日子、盛岡と出逢う~』で紹介される岩手県盛岡市は、今や国内外から注目を集める伝統工芸の宝庫です。2023年1月、米紙ニューヨーク・タイムズが発表した「2023年に行くべき52カ所」において、盛岡市はロンドンに次ぐ世界第2位に選ばれました。この快挙の背景には、400年以上の歴史を持つ南部鉄器をはじめとする伝統の手しごとが、現代の暮らしに息づいていることがあります。

俳優の市川実日子さんが「ずっと訪れたかった」と語る盛岡で、地方に息づく伝統的な手しごとの現場を訪ね、そこで出会った「豊かさ」とは何だったのでしょうか。この記事では、番組で取り上げられる「漆のうつわ」「南部鉄器」「さんさ踊りの花笠」などの伝統工芸の魅力と、盛岡を訪れる際のガイド情報を詳しくご紹介します。

盛岡の三大伝統手しごと

浄法寺塗とは

盛岡市を含む岩手県北部地域で作られる浄法寺塗は、日本一の漆産地が誇る究極の漆器です。現在、日本で使われている漆の98%以上は中国などからの輸入品ですが、浄法寺地域は国産漆の約70%を生産する日本最大の漆産地となっています。

浄法寺塗の名前は、中世に岩手県北部を支配していた浄法寺一族に由来します。土地の伝承によれば、神亀5年(728年)に行基がこの地に天台寺を建立した際、中央から派遣された僧侶が自家用の什器を作るために漆工技術を伝えたとされています。実に1300年近い歴史を持つ伝統工芸なのです。

浄法寺塗の特徴と魅力

浄法寺塗の最大の特徴は「蒔地法(まきじほう)」という独特の下地法にあります。水を使用せず、比類のない強度で堅牢な下地を作り上げることで、世代を超えて使い続けられる器が生まれます。余分な色彩や模様がなく、シンプルで実用的なデザインが特徴で、使い込むほどに深い艶が生まれ、経年変化を楽しめる器として愛されています。

滑らかな手触り、鮮やかで深みのある色合いを持つ美しい見た目、そして高い耐久性が浄法寺塗の三大魅力です。日々使っていると、自然と艶が生まれてくるため、時間とともに変化する器の表情を楽しむことができます。

訪れたい工房

  • うるみ工芸(盛岡市中央通二丁目):浄法寺塗を家業として代々製作している工房で、代表の勝又吉治氏は浄法寺塗伝統工芸第一号に認定され、平成28年には国の卓越技能章を受章しています。工房独自の本朱・タメという漆の色とマットな質感が特徴で、ショールームでの見学や体験学習も可能です。

地域でウルシの木を育て、漆を掻き、国産の木地に浄法寺漆を塗り重ねてつくる浄法寺塗は、まさに「究極の漆器」と呼ぶにふさわしい逸品です。

2. 南部鉄器 ~400年の伝統が紡ぐ鉄の芸術~

南部鉄器の歴史

盛岡の南部鉄器は、江戸時代中期(約380年前)に南部藩主が京都から釜師や鋳物師を招き、茶の湯釜を造らせたのが始まりです。江戸時代に南部藩の保護を受けて、甲州(山梨県)からも鋳物師を招き、茶の湯釜、仏具、鉄瓶の産地として発展しました。

この地域が鋳物製造に適していた理由は、古くから良質な鉄、川砂、燃料である木炭などが豊富に生産されていたためです。地域の資源を活かした伝統技術が、今日まで受け継がれています。

南部鉄器の特徴と魅力

南部鉄器は、重量感があり堅牢で、ざらりとした独特の風合いが特徴です。色は黒く装飾はシンプルなため、どこか無骨な東北らしい素朴さが魅力となっています。ステンレス製のやかんと比べ、鉄分が多く摂れることやお湯の味がまろやかになることから、健康志向の高まりとともに国内外で人気が高まっています。

伝統を守りながらも、時代が求める新しいデザインにも挑戦し続けている点も南部鉄器の魅力です。近年では、カラフルな急須や洋風のインテリアに合うモダンなデザインの製品も登場し、世界中で愛用されています。

訪れたい工房とスポット

  • 虎山工房:昔ながらの技法で伝統工芸品の南部鉄器を作っている工房。職人の手作りのため世界に二つと同じものはなく、鋳鉄製・砂鉄製、伝統形・創作形など多様な作品を制作しています。
  • 鈴木盛久工房:伝統を重んじながらも革新的な作品を生み出し続ける名工房。盛岡市内に店舗があり、作品の鑑賞と購入が可能です。
  • 薫山工房:盛岡手づくり村内に工房を構え、現在は三代目薫山を受け継ぐ伝統工芸士・佐々木和夫氏を中心に、鉄瓶や茶の湯釜、鉄花瓶などを制作。現代の生活にマッチした作品が特徴です。
  • 釜定:伝統的手法と近現代的なデザインを見事に融合させた盛岡南部鉄器の名店。400年以上続く鉄器作りの歴史に裏打ちされた技術と、モダンな感性が調和した作品が魅力です。
  • 岩鋳鐵器館:創業明治35年以来、年間100万点にのぼる南部鉄器を作り続ける老舗。伝統の意匠南部鉄器展示ギャラリーのほか、鉄瓶製作の作業工程を見学できる工場があり、世界一の大きさという大鉄瓶も展示されています。

3. 盛岡さんさ踊りの花笠 ~82歳の女性職人が守る伝統~

さんさ踊りと花笠の歴史

盛岡さんさ踊りは、毎年8月1日から4日まで盛岡市内で華やかに行われる夏祭りです。一つの祭として太鼓が参加する数では日本一を誇り、「和太鼓演奏世界一」としてギネスブックにも認定されています。

さんさ踊りは、胸に締太鼓を着けた太鼓打ちと踊り手で輪になって踊る形態が一般的で、踊り手は浴衣を着て、頭には蓮華またはボタンの花を表した花笠を着用し、腰には5~7色の帯を吊して踊ります。この花笠は、神霊を慰め、五穀豊穣を祈願する意味を持つ、さんさ踊りに欠かせない重要な要素です。

花笠作りの職人技

創業1906年、盛岡市肴町の一角に店を構える造花店「花王堂本店」は、盛岡さんさ踊りを彩る花笠を作る唯一の店となりました。82歳の女性職人と家族で、伝統の技を守り続けています。

花笠は布と針金で真っ赤な花びらを作り、それをボタンの花に似せて組み上げます。すべて手作業で行われるこの工程は、熟練の技と経験が必要とされる繊細な作業です。店では例年120~130個制作していましたが、新型コロナウイルスの影響で祭りが中止された期間を経て、2022年に3年ぶりの開催が決まった際には、花笠づくりが本格化しました。

伝統の技を次世代へつなぐため、近年では盛岡市北飯岡の永代印刷が、さんさ踊りで出演者がかぶる花笠の制作キット(500円)をオンラインストアなどで販売しています。印刷屋さんのキレハ紙と染物屋さんのハギレを使った「盛岡さんさ踊り 花笠キット」は、SDGsと伝統文化の両立を目指す取り組みとして注目されています。

盛岡手づくり村 ~伝統工芸のテーマパーク~

盛岡市を訪れたら必ず立ち寄りたいのが「盛岡手づくり村」です。「見て、触れて、創る」をコンセプトに、盛岡の工芸品、民芸品、食べ物などの伝統技術を集めた施設で、15工房が並ぶ手づくり工房ゾーン、4,000種類以上の地場産品の展示販売を行う盛岡地域地場産業振興センターなど、3つのゾーンで構成されています。

手づくり工房ゾーンの見どころ

現代の名工、伝統工芸士を含めた職人の作業風景を見学できるほか、実際に手づくり体験を楽しむこともできます。南部鉄器、漆器、陶器、藍染め、竹細工、わら細工、機織りなど、様々な伝統工芸の制作現場を間近で見学でき、職人の技と情熱に触れることができます。

体験できる伝統工芸

  • 陶器制作・陶器絵付け体験
  • 藍染め体験
  • 竹細工・わら細工体験
  • 機織り(はたおり)体験
  • 南部鉄器ペイント体験
  • 南部せんべい手焼き体験

少人数のコースで丁寧に指導してもらえるため、初心者でも安心して参加できます。自分だけのオリジナル作品を作る体験は、盛岡旅行の素敵な思い出になるでしょう。

その他の盛岡の伝統工芸

ホームスパン

盛岡はホームスパンの聖地としても知られています。100年続く手仕事の伝統を持ち、手織りの温かみのある羊毛織物は、服地、ストール、マフラーなどに加工され、盛岡を代表する工芸品となっています。

南部染・型染

南部古代型染、南部紫根染、南部茜染など、盛岡には多様な染物の伝統があります。天然藍本染製品も人気で、伝統的な技法で染められた布製品は、独特の風合いと色の深みが魅力です。盛岡手づくり村内の染屋たきうらなどで、藍染体験も楽しめます。

岩谷堂箪笥

奥州市で作られる岩谷堂箪笥も、岩手を代表する伝統工芸品です。重厚な作りと美しい金具装飾が特徴で、世代を超えて使い続けられる家具として高い評価を受けています。

盛岡観光のモデルコース

伝統工芸を巡る1日コース

午前

  • 盛岡手づくり村で工房見学と体験(2~3時間)
  • 南部鉄器や陶器の制作体験、または藍染体験を楽しむ

昼食

  • 盛岡三大麺(盛岡冷麺、わんこそば、じゃじゃ麺)のいずれかを堪能

午後

  • 市内の南部鉄器工房(虎山工房、鈴木盛久工房、釜定など)を訪問
  • 光原社物産館モーリオで盛岡の工芸品を鑑賞・購入
  • 盛岡市中央通のうるみ工芸で浄法寺塗を見学

夕方

  • 中津川沿いを散策し、岩手銀行赤レンガ館などレトロ建築を鑑賞
  • もりおか歴史文化館で盛岡の歴史と文化を学ぶ

8月訪問なら必見!盛岡さんさ踊り

毎年8月1日~4日に開催される盛岡さんさ踊りは、盛岡の夏を代表する一大イベントです。2025年で48回目を迎えるこの祭りでは、色鮮やかな花笠をかぶった踊り手たちが、太鼓や笛の音を響かせながら盛岡市内の中央通りをパレードします。

祭りの期間中は、花王堂本店で花笠の展示を見学したり、制作キットを購入して自分で花笠を作ってみるのもおすすめです。伝統の技に触れ、自分も祭りの一部になる体験は、特別な思い出となるでしょう。

盛岡の魅力を支える「手しごと」の精神

市川実日子さんが番組で感じた「豊かさ」とは、単に美しい工芸品や伝統技術だけではなく、それを作り続ける職人の姿勢と、その技を未来へつなごうとする人々の思いにあるのではないでしょうか。

盛岡の伝統工芸が今も息づいている理由は、伝統を守りながらも革新を恐れない職人たちの挑戦と、その価値を理解し支える地域の文化があるからです。82歳の花笠職人、代々受け継がれる南部鉄器の技、国産漆にこだわる浄法寺塗の職人たち。彼らの手から生まれる作品は、単なる「もの」ではなく、時間と心を込めた「手しごと」の結晶なのです。

アクセス情報

盛岡市へのアクセス

  • 東京駅から東北新幹線「はやぶさ」で約2時間10分
  • 仙台駅から東北新幹線で約40分

盛岡手づくり村へのアクセス

  • JR盛岡駅から車で約15分
  • 盛岡駅東口からバス「盛岡手づくり村」行きで約20分

市内の工房めぐり

  • 盛岡市中心部は徒歩で散策可能
  • レンタサイクルの利用もおすすめ

未来へつむぐ、盛岡の手しごと

ニューヨーク・タイムズが「2023年に行くべき52カ所」の世界第2位に選んだ盛岡市。その評価の背景には、東京から新幹線で2時間10分という距離と、和洋折衷の建造物や観光地を歩いて巡れるという利便性だけでなく、何よりも地方に息づく伝統的な「手しごと」の文化がありました。

400年以上の歴史を持つ南部鉄器、国産漆にこだわる浄法寺塗、82歳の職人が守る花笠づくり。これらの伝統工芸は、単に古いものを守るだけでなく、現代の暮らしに溶け込み、世界中の人々に愛される「一生もの」として進化し続けています。

市川実日子さんが「またすぐに訪れたい」と語った盛岡の魅力は、職人の手から生まれる温かみのある工芸品と、それを支える人々の暮らしの豊かさにあります。伝統とモダンが融合した美しい形、いつもそばに置いて使いたくなる愛着、世代を超えて受け継がれる価値。盛岡の手しごとは、私たちに「豊かさとは何か」を問いかけてくれます。 テレビ岩手制作の『未来へつむぐ、手しごとの旅~市川実日子、盛岡と出逢う~』は、2025年12月19日(金)夜7時から放送されます。番組では「ミナ ペルホネン」のデザイナー・皆川明さんも出演し、盛岡の手しごとの魅力を語ります。番組を通して、あるいは実際に盛岡を訪れて、職人たちの手から生まれる温かみのある工芸品と、この街の豊かな文化に触れてみてはいかがでしょうか。

このように、日本各地に伝統が残っています。しかし、伝統や老舗が後継者不足でなくなりつつあるのも事実です。少しでも、この様な各地の日本の伝統を発信して行きたいと思います。

この番組は全国一斉放送ではありませんが、複数の局で放送される予定です。

主な放送

テレビ岩手(制作局)

  • 放送日時: 2025年12月19日(金)午後7時〜7時56分
  • 岩手ローカルでの放送

その他の地域

報道によると、日本テレビ系列13局で順次放送予定とされています。ただし、具体的な放送局名や放送日時については、現時点では明らかにされていません。

番組について

  • 出演: 市川実日子(旅人)、皆川明(ミナ ペルホネン デザイナー)
  • ナレーション: 朴璐美
  • 内容: 市川実日子が岩手県盛岡市を訪れ、南部鉄器をはじめとする伝統的な手しごとの現場を巡る旅番組

お住まいの地域での放送については、各地域の日本テレビ系列局の番組表をご確認されることをおすすめします。

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