映画「国宝」の駄作と大ヒット評価の二極化― ヒット要因の徹底分析

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映画「国宝」。当初の評価では、駄作、人物の描き方が甘い、10億円くらいしか行かないだろう、などと散々な評価でした。ところが、いざ蓋を開けてみると、公開から約5か月で、観客動員1207万人、興行収入170億円突破の大ヒット。

予想をくつがえしての大ヒットの要因は何なのでしょうか。また監督の李 相日(イ・サンイル/リ・サンイル)さんとはどのような人なのでしょうか、深堀していきます。

空前の大ヒットを記録

映画「国宝」は2025年6月に公開され、興行収入170億円超、観客動員数1207万人という驚異的な数字を記録しています。デイリー新潮によれば、2003年公開の「踊る大捜査線 THE MOVIE2」(173.5億円)を超え、実写邦画として歴代1位になることが確実視されています。この快進撃は22年ぶりの実写邦画100億円突破であり、日本映画界に衝撃を与えています。

業界内での駄作評価という矛盾

しかし興味深いことに、一般観客から絶賛される一方で、映画業界の関係者や評論家からは厳しい評価も寄せられています。現代ビジネスの記事では、複数の業界関係者が「興行的には大成功だが、映画としての出来は微妙」「原作の魂を抜き取ってしまっている駄作」と匿名で語っています。この二極化は、商業的成功と芸術的評価の乖離という、日本映画界の構造的な問題を浮き彫りにしているのです。

批評家たちが指摘する問題点は、主に原作からの大幅な改変、歌舞伎シーンの扱い方、そして物語の深みの欠如などである。特に吉田修一の原作小説が持っていた文学的な深さや複雑な人間描写が、映画では単純化されすぎているという批判が根強い。

李 相日さんとはどのような監督か

李相日監督の主な作品と興行収入

李相日監督は、新潟県出身の在日朝鮮人三世の映画監督で、人間の葛藤や社会の闇を深く掘り下げた作風で知られています。以下は主な監督作品と興行収入です。

主要作品一覧

タイトル備考興行収入
青〜chong〜 (1999年)ぴあフィルムフェスティバルでグランプリを含む史上初の4部門独占
BORDER LINE (2002年)第8回新藤兼人賞金賞受賞
69 sixty nine (2004年)村上龍の小説を映画化6億円
スクラップ・ヘブン (2005年)第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞・監督賞・脚本賞受賞
キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位
李相日監督の名を全国に知らしめた代表作
フラガール (2006年) 14億~16億円
タガタメ (2008年)コンピレーション映画『みんな、はじめはコドモだった』の一編
悪人 (2010年) 第34回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞
キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位、日本映画監督賞受賞
吉田修一原作の第1作目
約19.8億円
許されざる者 (2013年)クリント・イーストウッド監督作品の日本版リメイク7億円
流浪の月 (2022年)2020年本屋大賞受賞作の映画化
広瀬すず、松坂桃李主演
8.3億円
国宝 (2025年)吉田修一原作の第3作目
吉沢亮主演
実写邦画として22年ぶりに150億円突破、歴代実写邦画2位
第17回TAMA映画賞最優秀作品賞受賞

ヒットの法則を覆した五つの要因

それでも「国宝」が大ヒットした理由は、従来の日本映画のセオリーを完全に覆すものでした。JBプレスが指摘するように、若年層狙いでもなく、人気コミック原作でもなく、テレビ局主導でもなく、さらには3時間という長尺でありながら成功を収めたのです。

第一の要因は口コミとSNSの力です。ハリウッド・リポーターの分析によれば、初週3位スタートから翌週2位、そして3週目に首位に浮上するという異例の伸び方を見せました。これは2018年の「ボヘミアン・ラプソディ」以来の現象で、SNSを中心に「3時間があっという間だった」「邦画史上最高」といった口コミが急速に拡散し、公開4週目まで前週比で興行収入が伸び続けるという稀有なロングラン型ヒットとなりました。

第二の要因は世代を超えた訴求力です。当初はシニア層が中心でしたが、吉沢亮と横浜流星という人気俳優の熱演、そして歌舞伎という伝統芸能を題材としながらも普遍的な人間ドラマとして描かれたことで、Z世代を含む若年層にまで支持が広がりました。歌舞伎に興味がなかった層までも映画館に足を運ばせた点が、予想外の大ヒットにつながったといえます。

第三の要因は映像美と俳優陣の圧倒的な演技力である。李相日監督による美しい映像表現と、吉沢亮・横浜流星が長期間にわたる歌舞伎の稽古を経て演じた迫力ある舞台シーンは、多くの観客を魅了しました。渡辺謙をはじめとするベテラン俳優陣の重厚な演技も、作品全体のクオリティを底上げしました。

第四の要因は制作体制の革新性である。ITmediaが報じるように、本作はテレビ局主導ではなく映画会社主導で製作され、実写映画の限界とされていた10億円を大幅に超える制作費を投じました。この決断が、妥協のない作品作りを可能にしたのです。

第五の要因はカンヌ国際映画祭での評価であります。第98回アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表に選出されるなど、国際的な評価が国内での権威付けとなり、「見なければならない作品」という認識を広めたのです。

駄作評価との共存が示すもの

興味深いのは、業界人からの駄作評価と一般観客の絶賛が共存している点でなのです。これは芸術性と商業性、専門家の目線と一般観客の感性の違いを如実に示しています。評論家が求める文学的深さや芸術性よりも、観客は俳優の熱演や視覚的な美しさ、そして感情を揺さぶられる体験を求めていたのです。 「国宝」の成功は、日本映画界に新たな可能性を示しました。従来のヒット法則に縛られず、質の高い作品に十分な予算と時間をかけ、口コミによる自然な広がりを信じる――この戦略が、22年ぶりの実写邦画100億円超えという快挙につながった。業界人の評価はともかく、観客の心を掴んだという事実こそが、映画の本質的な成功を物語っているのです。

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