福岡県と大分県の県境に位置する英彦山は、標高1,199メートルの霊峰として、古くから山岳信仰の中心地として栄えてきました。出羽三山、大峯山と並んで日本三大修験山のひとつに数えられるこの神聖な山は、秋になると山全体が燃えるような紅葉に包まれ、訪れる人々を魅了します。例年10月下旬から11月中旬にかけて見頃を迎え、山頂付近から麓へと徐々に色づいていくため、長い期間にわたって紅葉狩りを楽しむことができます。
1.高住神社(豊前坊)と天狗伝説
英彦山の北東中腹に鎮座する高住神社は、明治時代の神仏分離以前は「豊前坊」と呼ばれ、修験道の霊場として知られていました。この神社で特に有名なのが、九州の天狗界のトップとされる「豊前坊大天狗」の伝説です。
豊前坊大天狗は、日本各地の天狗の中でも強大な力を持つとされ、厳しい修行を積んだ山伏が天狗の験力を得ると信じられてきました。この天狗は慈悲深く、信仰心の厚い者には手を差し伸べ、農耕神として人々の暮らしを守る一方、欲深く奢りに狂った者には小天狗を遣わして懲らしめるという、正義の化身として崇敬されています。

高住神社の境内には、樹齢850年から900年とされる御神木「天狗杉」がそびえ立ち、巨岩の中に本殿が建てられているという独特の構造を持ちます。参道を上ると青銅の神牛像が迎えてくれ、神聖な雰囲気に包まれます。
左:高住神社の銀杏
紅葉の時期には、駐車場周辺から境内にかけて大ぶりのモミジやカエデが深紅に色づき、圧巻の美しさを見せてくれます。天狗が住まう聖地にふさわしい、神秘的で荘厳な紅葉風景は、多くの写真愛好家や観光客を魅了してやみません。
山伏の修験道と儀式
英彦山は1300年以上の歴史を持つ修験道の聖地であり、かつては多くの山伏が厳しい修行を行っていました。修験道とは、山岳信仰、神道、仏教、道教、陰陽道などが融合して確立された日本独自の信仰形態です。山を神様や仏様に見立て、山に伏すことで自らの霊力を高め、潜在的な能力を開花させることを目的としています。
現在でも英彦山では、修験道体験プログラムが年間を通じて実施されており、山伏装束を身にまとって峰入り道を歩く貴重な体験ができます。体験では、玉屋窟編、南岳編、中岳編、北岳編と、それぞれの場所での修行を体験することができ、終了後には修了証明書が発行されます。
山伏の儀式として特に重要なのが「柴燈護摩(さいとうごま)」と呼ばれる火の儀式です。高住神社では年に数回、この護摩焚きが行われ、境内の護摩壇で燃え上がる炎の中を歩く「火生三昧(火渡り)」の儀式も執り行われます。この神聖な炎は無病息災をもたらすとされ、多くの参拝者が訪れます。
2.英彦山神宮の紅葉
英彦山の中腹に位置する英彦山神宮は、天照大神の御子である天忍穂耳命を御祭神とする古社です。古来より「日の子の山」すなわち「日子山(ひこさん)」と呼ばれ、江戸時代には霊元法皇から「英」の字を賜り「英彦山」となりました。
神宮の奉幣殿へと続く表参道は、石段が続く荘厳な道のりで、両脇の木々が紅葉すると、まるで紅葉のトンネルのような美しい景観が広がります。10月下旬から11月上旬にかけて中腹エリアが見頃を迎え、モミジ、イロハカエデ、イチョウなどが鮮やかに色づきます。
右:英彦山神宮銅の鳥居の銀杏

奉幣殿周辺や旧政所坊庭園では、よく手入れされた日本庭園と紅葉のコントラストが素晴らしく、枯滝石組の本格的な庭園が紅葉で彩られる様子は、まさに絵画のような美しさです。銅鳥居から奉幣殿に至る参道では、毎年11月には「英彦山参道マルシェ」が開催され、英彦山ゆかりの品々が並び、紅葉狩りとともに地域の文化に触れることができます。
3.英彦山大権現の不動明王と紅葉
英彦山の紅葉スポットの中でも、特に人気が高いのが英彦山大権現です。この地域には本殿と湯の谷別院があり、それぞれに見事な紅葉スポットが点在しています。
湯の谷別院には、清らかな英彦山川を挟んで、赤い炎を背負った不動明王像と童子像が並んで立っています。紅葉した木々の中に佇む深紅の不動明王像は、まさに「和」の美を体現した絶景として知られ、多くの写真愛好家が訪れる名所となっています。
川のせせらぎと紅葉、そして不動明王という組み合わせは、日本の秋の風景の神髄を表しており、どの角度から撮影しても絵になる美しさです。境内の「もみじ谷」や「もみじ庵」と呼ばれるエリアでは、遊歩道を散策しながら紅葉を楽しむことができ、枯山水式庭園の紅葉も見事です。

上:不動明王の紅葉
大権現周辺では、例年10月下旬から11月中旬が見頃となり、特に11月上旬から中旬にかけてピークを迎えます。駐車場から紅葉庵に向かう道沿いの紅葉も素晴らしく、英彦山川に架けられた橋の上から眺める不動明王と紅葉の組み合わせは、訪れる人々の心に深く刻まれる光景となっています。
アクセスと周辺の見どころ
英彦山へのアクセスは、車で訪れるのが便利です。北九州方面からは国道322号線を、福岡市方面からは国道500号線を利用します。高住神社、英彦山神宮、英彦山大権現それぞれに駐車場が整備されていますが、紅葉シーズンのピーク時には混雑が予想されますので、早めの時間帯の訪問をおすすめします。
その他の紅葉スポットとしては、英彦山青年の家周辺、鷹巣原高原のススキと紅葉のコラボレーション、花見ヶ岩公園などもあり、一日かけてゆっくりと英彦山の紅葉を堪能することができます。添田町
英彦山は、天狗伝説と修験道の歴史が息づく神聖な山であり、その荘厳な雰囲気と美しい紅葉が織りなす景観は、訪れる人々に深い感動を与えてくれます。秋の英彦山を訪れ、千年以上の歴史と自然の美しさに触れてみてはいかがでしょうか。
紅葉情報まとめ
- 見頃時期: 10月下旬~11月中旬
- 紅葉する木: モミジ、イロハカエデ、イチョウ、ブナ
- 主な見どころ: 高住神社(豊前坊)、英彦山神宮奉幣殿、英彦山大権現もみじ庵、湯の谷別院不動明王
- アクセス: 車利用が便利(駐車場あり)
- 特徴: 山頂から麓へ順に色づくため、長期間楽しめる
※紅葉の見頃は気候条件により変動しますので、お出かけ前に最新の紅葉情報をご確認ください。


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