ペンの日と万年筆の魅力―クローズドノートとお気に入りのデルタドルチェビータ

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映画『クローズド・ノート』と万年筆

2007年に公開された映画『クローズド・ノート』(雫井脩介原作、沢尻エリカ、竹内結子主演)は、万年筆を重要なモチーフとして描いた作品として、万年筆愛好家の間でも話題となりました。

この映画において、主人公の堀井香恵が持つ万年筆として登場したのが、イタリアの名門万年筆メーカー「デルタ(DELTA)」の「ドルチェビータ ミニ(Dolcevita Mini)」でした。

作品の中で万年筆は、単なる筆記用具としてではなく、人と人との思いを繋ぐ大切なアイテムとして描かれています。ノートに綴られた文字、そこに込められた想い、そしてそれを書いた万年筆。これらすべてが物語の重要な要素となっているのです。

→DELTA DOLCEVITA SLIM

photo by Kojy

映画では、ブルーブラックのインクで書かれた文字が印象的に描かれています。ブルーブラックは、純粋な黒ではなく青みがかった色合いが特徴で、時間の経過とともに黒っぽく変化していく独特の性質を持っています。この色の変化もまた、時間の流れと記憶の重なりを表現する効果的な演出となっていました。

ペンの日とは

11月26日は「ペンの日」です。この記念日は、1935年(昭和10年)11月26日に日本ペンクラブが創立されたことに由来しています。記念日として正式に制定されたのは、創立30周年を記念した1965年(昭和40年)のことでした。初代会長には、『初恋』や『破戒』で知られる文豪・島崎藤村が就任しました。

日本ペンクラブの「PEN」という名称には、単なる筆記用具を意味するだけでなく、文学の各分野を象徴する深い意味が込められています。Pは詩人(Poet)や劇作家(Playwright)、Eは随筆家(Essayist)や編集者(Editor)、Nは小説家(Novelist)を表しています。

この記念日が制定された1935年当時の日本は、満州事変後に国際連盟を脱退し、国際的に孤立へと向かう困難な時代でした。そのような中でも、文学者たちは言論の自由と国際的な文化交流を守ろうと、日本ペンクラブを創立したのです。まさに「ペン」は言論のメタファーとして、文化と平和を守る象徴であったと言えるでしょう。

万年筆の歴史と日本における発展

万年筆の歴史は古く、その原型は今から1000年以上前の西暦953年のエジプトで誕生したと言われています。現代の万年筆の礎となったのは、1809年にイギリスのフレデリック・バーソロミュー・フォルシュが発明した、金属製の軸の中にインクを貯蔵し、ペン先にインクを送って書ける筆記具でした。

日本に万年筆が入ってきたのは明治時代のことです。1884年(明治17年)に横浜のバンダイン商会が輸入し、東京・日本橋の丸善などで販売されたのが始まりでした。当時は「針先泉筆」と呼ばれており、「萬年筆」と命名したのは、同じ1884年に日本初の国産万年筆を模作した大野徳三郎と言われています。

日本における万年筆の普及は、明治41年(1908年)に公文書でインキの使用が解禁されたことが大きな転換点となりました。それまでは毛筆が主流でしたが、西洋文化の影響と実用性の高さから、万年筆は次第に日本人の筆記用具として定着していきました。

セーラー万年筆、パイロット、プラチナ万年筆といった国内三大ブランドは、日本の万年筆製造技術の高さを世界に示してきました。特に14金ペン先の生産技術は、日本の職人の技術力を象徴するものとなっています。

デルタドルチェビータミニの魅力

「ドルチェビータ(Dolcevita)」とは、イタリア語で「甘い生活」を意味します。この名前の通り、デルタのドルチェビータシリーズは、イタリアンデザインの優雅さと、日常を豊かにする書き味を兼ね備えた万年筆です。

ドルチェビータミニは、通常サイズのドルチェビータをコンパクトにした万年筆で、全長約12cm、握り部分約6~6.5cmというサイズ感が特徴です。ペリカンのM600シリーズとほぼ同サイズで、普段使いにも最適な一本と言えます。

ペン先は18金(14金の仕様もあり)で、F(ファイン:細字)やM(ミディアム:中字)などのバリエーションがあります。ペン先が紙に着く角度が程良く、柔らかなペン先のため長時間の筆記でも疲れにくいという特徴があります。

鮮やかなレジンボディは、持っているだけで元気になれるようなカラフルな色合いが魅力です。デルタは2018年に惜しまれつつも廃業してしまったため、現在では入手が難しい貴重な万年筆となっていますが、その美しさと書き心地は今でも多くのファンに愛され続けています。

万年筆がもたらす書く喜び

現代はデジタル化が進み、キーボードやスマートフォンで文字を入力することが主流となっています。しかし、万年筆で紙に文字を書くという行為には、デジタルでは得られない独特の魅力があります。

万年筆は、ペン先の弾力と重力によってインクが流れ出る仕組みになっているため、過度な筆圧を必要としません。紙の上を滑らかに滑るように文字が書ける感覚は、万年筆ならではの心地よさです。また、自分の筆圧や書き方の癖によって、同じ万年筆でも書き味が変化していくため、使い込むほどに愛着が湧いてきます。

さらに、インクの色を選ぶ楽しみもあります。ブルーブラック、セピア、グリーン、ボルドーなど、様々な色のインクを使い分けることで、文字そのものに表情が生まれます。手紙を書く際に、相手や内容に合わせてインクの色を選ぶという行為は、デジタルにはない思いやりの表現とも言えるでしょう。

ペンの日に思いを馳せて

11月26日のペンの日は、私たちに「書くこと」の意味を改めて考えさせてくれる記念日です。日本ペンクラブの創立から約90年、文学者たちが守ろうとした言論の自由と文化の価値は、今もなお大切にされるべきものです。

photo by Kojy

万年筆という筆記用具は、単に文字を書くための道具ではありません。それは、自分の思いを丁寧に紡ぎ出すための相棒であり、時には人生の大切な瞬間を記録する証人でもあります。映画『クローズド・ノート』で描かれたように、万年筆で書かれた文字には、書いた人の想いや時間が刻み込まれているのです。

デルタドルチェビータミニのような美しい万年筆を手にすると、何か特別なことを書きたくなります。日記を始めたり、久しく連絡を取っていなかった友人に手紙を書いたり、あるいは小説や詩を綴ってみたくなるかもしれません。万年筆は、私たちの内なる創造性を呼び覚ましてくれる不思議な力を持っているのです。

ペンの日を機会に、デジタルから少し離れて、万年筆を手に取ってみてはいかがでしょうか。滑らかに流れるインク、紙に文字が刻まれる感触、そして自分の手で紡ぎ出される言葉たち。そこには、キーボードでは決して得られない、書くことの本質的な喜びが待っています。


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