大分県豊後高田市にある津波戸山(つわどさん)は、国東半島を代表する修験道の山のひとつです。切り立った岩峰や鎖場が連続するスリリングな登山道を歩きながら、弘法大師八十八ヶ所霊場を巡ることができます。
国東半島の山々は凝灰角礫岩と呼ばれる独特の岩でできています。岩は比較的滑りにくく、岩峰と自然林が交互に現れる変化に富んだコースが特徴です。
今回は、おこぼうさんと呼ばれる石仏を巡りながら、津波戸山を歩いた記録です。
津波戸山に登る
駐車場から森の中を歩くと津波戸山登山口に着きます。
大きな案内板には「弘法大師八十八ヶ所霊場巡拝道」と書かれていました。
登山道へ入ると、深い森の中に苔むした石が点在し、静かな雰囲気に包まれます。
旧海蔵寺跡を過ぎると、西尾根ルートと東尾根ルートの分岐があります。
津波戸山はこの二つの尾根を巡る周回コースになっています。
しばらく歩くと石仏が現れました。地元では「おこぼうさん」と呼ばれているそうです。
二番、三番、四番と番号が振られており、全部で八十八体あります。
弘法大師八十八ヶ所霊場になぞらえたものですが、その時は「一番はどこにあるのだろう」と不思議に思いました。
岩場を越え、森を抜けると再び岩峰に出ます。眼下には日豊本線が見え、特急ソニックが小さく走り抜けていきました。
国東半島らしい景色です。
修験道の象徴・無明橋

やがて鎖場を登ると、津波戸山最大の見どころである無明橋が現れます。
岩と岩の間に架かる一枚岩の石橋。下を覗くと深い谷が切れ込んでいます。
国東半島にはいくつか無明橋(むみょうばし)がありますが、いずれも修験者が精神を鍛えるために渡ったと伝えられています。
高所恐怖症の私にとっては試練そのものでした。しかし、せっかく修験道の山に来たのです。
意を決して橋を渡りました。橋を渡り終えた時には、達成感と安堵感でいっぱいでした。
その後も鎖場や岩場が続きましたが、予想以上に時間がかかってしまいました。
この日は途中から近道を下り、いったん下山することにしました。そして改めて再挑戦することを決めたのです。
半年後の再挑戦
約半年後、再び津波戸山を訪れました。
前回は途中で引き返したため、今回は山頂と八十八番札所まで到達するのが目標です。
登山口から歩き始め、前回引き返した地点を越えて進みます。すると、さらに険しい岩尾根が続いていました。
左右は深い谷。木が少なく、むき出しの岩の上を歩く場所もあります。
足元には二十六番、二十七番のおこぼうさん。
石仏に励まされるように歩き続けました。目の前には次々と岩峰が現れます。
登っても登っても終わらないように感じました。しかし振り返ると、国東半島の山々が遠くまで見渡せます。
標高以上の高度感があります。
奇岩絶壁に残る自然

津波戸山を歩いていて感じたのは、自然の豊かさです。
岩峰と森が交互に現れる独特の景観は、まさに国東半島ならではです。
ある時、岩峰の上を一羽の大型の鳥が旋回していました。上半身が黒っぽく、下半身は白い猛禽類です。
普段の生活ではまず見かけることのない姿でした。
人が簡単には近づけない岩峰が連なる津波戸山には、貴重な自然環境が今も残っているのでしょう。
山頂から東尾根ルートへ

やがて「仁聞の硯石」や「奥の院」を通過し、津波戸山山頂へ到着しました。半年越しの目標達成です。
山頂では持参したもつ鍋を作り、ゆっくり昼食を楽しみました。その後は東尾根ルートへ進みます。
夫婦杉を過ぎると、六十六番から八十八番までのおこぼうさんが続きます。
ゴールは近いはずですが、ここからも鎖場や痩せ尾根が続き、最後まで気が抜けません。
それでも岩峰の上から見る景色は素晴らしく、国東半島の山旅を存分に楽しむことができました。
八十八番札所と一番札所

長い下りの途中で、一枚の札が目に入りました。
「お疲れさま お帰りは矢印の方へ」
その下には八十八番のおこぼうさんがありました。ついに最後の札所です。
達成感に包まれました。しかし、そこでふと思いました。「結局、一番札所はどこにあったのだろう」
下山後、旧海蔵寺跡を歩いていると、片隅に小さなお社がありました。中を覗くと、そこに一番のおこぼうさんが静かに鎮座していました。
これで八十八ヶ所巡りも無事完結です。
おわりに
津波戸山は、国東半島らしい修験道の世界を色濃く残す山でした。
無明橋、鎖場、奇岩絶壁、そして八十八体のおこぼうさん。
一般的な登山とはひと味違う魅力があります。
国東半島の歴史や修験道に興味がある方にはもちろん、少し冒険気分を味わいたい登山者にもおすすめしたい山です。
歩き終えた今でも、岩峰の上に立つおこぼうさんの姿が強く印象に残っています。


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